FACT FULLNESSの差し込み画像。世に流れている情報、ニュース、統計は、意図せず誤って解釈されている可能性がある。事実を事実のままに認識する術を本書では紹介している。
ビジネス

FACT FULNESS 書評

効能

ありのままの事実をつかめます

こんな人にオススメ

ついつい悲観してしまう方

この世も捨てたもんじゃない

地球温暖化、各地で起きている紛争/内紛、格差社会、高齢化問題、エイズ、新たな病原菌/ウイルス、人種差別、凶悪犯罪。
ニュースはショッキングな情報で溢れ、この世はどんどん悪くなるイメージをみなさんは持っていませんか?
専門家と思われるコメンテーターがショッキングなデータを紹介し、まるでこの世は地獄に向かっているのではないかと錯覚させられます。

しかし、実は世の中はそこまで捨てたもんじゃないです。
だって、考えてみてもください。我々の何%の人間が、戦争を経験したのでしょうか?
未知のウイルスに感染して命を落とした人は? 平均寿命はどうでしょうか?
そう、実は世界は少しづつではありますが、改善されているのです。
しかし、世の中の多くの人びとは、正確にデータを読み取ろうとせず、インチキくさい専門家が紹介するデータを鵜呑みにし、勝手に将来を悲観しているんです。
本書では過去と現在の膨大なデータを解析し、ありのままの世界状況を可視化することに焦点をおいています。
そして、著者が確認したデータと、様々な国の人びとが考えている世界感の誤った認識のギャップについても、興味深い考察が述べられています。
例えば、本書では世界の様々な状況を示すいくつかのデータを紹介し、クイズ形式で読者に質問しています。

質問:世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は、過去20年でどう変わったでしょう?
A 約2倍になった
B あまり変わっていない
C 半分になった

FACT FULNESS

みなさんは上記の質問の答えを知っているでしょうか? その答えは是非とも本書を読んで確認してほしいのですが、面白いことに、こういった事実に基づくクイズに関しては、多くの人が誤った答えを選んでしまうとのことです。
そして、その正答率に学歴やIQは関係なく、なんと、問題によってはチンパンジーと変わらない正答率であったとのことです。(笑)
チンパンジーが意味も分からず選んだ回答と、人間が選んだ回答に大きな正答率の差異が発生しなかったという実験データが紹介されています。
あなたの周りにもいませんか?
色々なことに私見、コメントを言うのだけれども、どこかのワイドショーで聞いたことがある言い回しだったり価値観であったり。
何が厄介って、こういう人たちは大した根拠もないのに、頑なに考え方を変えないんですよね。
しかし、こういった事象は日本だけでなく、世界中で確認できているようです。
なぜ、偏屈な考えを持つ人が生まれてしまうのか。本書は人間の根本的な本能がそうさせるのだ、と結論づけています。

一回きりの人生、ドラマチックにいこうぜ

なぜ、多くの人は世界を悲観的な、ネガティブな視点で捉えてしまうのでしょうか。
それは生物としての本能がそうさせるのだ、と本書でも述べられています。
つまり、常に最悪を想定し、それに備える想像力の有無が、個の生存確率に直結したからです。
「いや、どうにかなるっしょー」という考えをずっと持ち続けてしまっては、病気や飢え、縄張りの危機を検知することができずに、最悪の場合、死につながってしまうからです。
また、ジェットコースターやお化け屋敷、ホラー映画、アクション映画に代表されるように、人はドラマチックな展開、予想もしなかった未来の出現に心踊る生き物なのです。
そのため、ついつい世の中をドラマチックな視点で捉えてしまい、「世界はどんどんドラマチックにダメになっちゃっているよ」という集団心理が誤って働いてしまうことがあるのです。

ドラマチックな本能と、ドラマチックすぎる世界の見方
なぜ、一般市民から高学歴の専門家までが、クイズでチンパンジーに負けるのか。知識不足を解決する方法はあるのか。何年もの間、事実に基づく世界の見方を教え、目の前の事実を誤認する人を観察し、そこから学んだことを一冊にまとめたのがこの本だ。
あなたは、次のような先入観を持っていないだろうか。
「世界では戦争、暴力、自然災害、人災、腐敗が絶えず、どんどん物騒になっている。金持ちはより一層金持ちになり、貧乏人はより一層貧乏になり、貧困は増え続ける一方だ。何もしなければ天然資源ももうすぐ尽きてしまう」

FACT FULNESS

専門的な知識を持っている人もそういった罠にかかってしまうのですから、我々のような一般人も簡単に誤認識の罠にかかってしまうのも納得です。
そして、著者はこのような事態について、鋭い考察を述べています。

考えずに感じているだけ
ネガティブ本能が刺激される理由はもうひとつある。 そもそも、「世界はどんどん悪くなっている」という人は、どういう考え方をしているのだろう。わたしが思うに、そういう人たちは実はあまり深く考えておらず、なんとなく感じているだけだ。

なんだか耳の痛くなる話です。。。
確かに、世界の状況、政治、ニュースなどについて、我々はろくに調べも考えもせずに、感じただけで理解した気になってしまっていますよね。
「全然理解できない。我々は雰囲気だけ感じている。」
私なんかも流されやすい性格ですから、他の人がそう言っているんだから、認識に誤りはないんだろう、なんて安直に物事を判断してしまうことがあります。
本書では世に蔓延る嘘の情報、認識、データを、どのように見抜くことができるか、また、誤った認識に陥りやすいパターンはどのようなものがあるのか、膨大なデータをもとに、「事実をありのままに把握する」術を紹介しています。

感想・レビュー

様々な調査データをもとに、現在の世界の状況を正しく認識できる本書は、ビジネス・パーソンだけでなく、学会、大学機関で働く方にも非常に有益なものになっているのではないでしょうか。
なぜ、我々は誤った印象データを信じてしまうのか、それは以前に紹介した以下の本にも記載がありましたので、興味がある方は是非、本書も読んでみてください。

地球温暖化や少子化、増えない給料、増税など、目を覆いたくなるような現実もありますが、果たして本当に我々の生活は悪くなっているのか? あらためて考えさせられる内容となっていました。
また、仮にネガティブなデータがあったとしても、それに引きづられて自分の人生を悪く考える必要はないんです。「確かに状況は悪いかもしれない。でも、それをどうにかするのが人生だ」という強い気持ちを、是非ともみなさんも持ってみてください。
ものは考えようです。
精一杯、楽しく生きてやりましょう。